二月一日

この日の為にすべてを投げ打った時期があった。
休日も、睡眠時間も、野球も、友達も、家族も、
いろんなものを削れるだけ削りきって、
武蔵という私にとって最高の学校に入れたのである。
しかし、成功した私が言うのもなんだが
この中学受験というのは小学生にとっては残酷すぎる気がする。
五年前の二月にそのことを痛感した。


晴れて入学手続きも済み、入試の為に休んでいた小学校へも復帰。
私は親から、不本意だった人の気持ちを考え入試については触れないように
よく言われていたのだが、周りはそうではなかった。
あちこちで入試結果が声高に会話され、休み時間にはその話題でもちきりになった。
そんなときに友達のA君も「俺も第一志望受かったよ」と教えてくれたのだ。
前日に「お互い頑張ろうな」と励ましあっただけに私にとっても嬉しい報告だった。
だからその日は一日中A君や他の受かった友達と一緒に入試について談笑していたのだ。
そうこうして家に帰り、のんびりと夕飯を食べ終わった時分に電話があった。
A君からだった。
「ほんとは…俺…落ち…たんだ」と泣きながら嗚咽まじりに言うのだ。
衝撃だった。
恐らく周りの相当数が受かっており、そのことをひけらかす雰囲気に呑まれてしまい、
嘘をつかざるを得なかったのだろう。
そしてそのことを知った親に怒られたのかもしれない。


とにかく二月一日はそういう日なのだ。
そして入試というのはそういうものなのかもしれないと感じた。
倍率からも分かる通り、喜ぶ人より挫折感を抱く人の方が圧倒的に多い。
二年後は更に激しい競争の渦中に自分が巻き込まれるのかと思うとげんなりする。
なんだかなあ。変な世の中。