下見(1)

今日は強歩の下見だった。
強歩の下見では大抵面白いことが起こる。
そこで、ネタがなくなったらその面白いことを
ちびちび書いていこうかなあと思っている。


そいつには下見二回目ぐらいのとき初めて出会った。
そいつの名前はAnn。黒人さんだ。
別に黒人なら東京に住んでたら大して珍しくないし、面白くも何ともない。
ただ、そいつの出で立ちが普通ではなかった。
私たち下見の一行はそいつの家の前を通ったのだが、
そいつは自宅の駐車場で体育座りをして極太い葉巻を吸っているのだ。
しかも耳には白いイヤホンiPodを聞いている。
なにが悲しくて日曜の昼間っから駐車場で葉巻を吸わなければいけないんだろう。
日曜日の閑静な住宅地におよそ相応しくない光景に私たちは笑い転げてしまった。


次の下見の時、
またAnnに会えるかと期待に胸を膨らませて家の前に行ったが、Annはいなかった。
そのかわり駐車場にいたのは黄緑色の車だった。それは見事な黄緑色だった。
あの日曜の昼間から葉巻を吸っているようなAnnがこんな可愛らしい車に乗ることを想像すると、
なんとも可笑しくてまたみんなで笑った。


ところがその次の下見ではAnnも車もなかった。
あったのは黄緑色の車の代わりに黒っぽいミニバン。
そして表札を見ると『酒井』と書いてあった。
Ann失踪事件!
この意外な展開にまたみんなで笑ってしまった。


そして今日の下見でまた新展開。
やはりミニバンしかなかったし、Annもいなかった。
しかしAnnの家の向かいの貸駐車場を見てみると、
あの黄緑色の車があるではないか!
Annは失踪していなかった。
よく考えてみると、『Ann』と表札に書いてあるのを見た覚えが誰にもない。
ではなぜ彼がAnnだと分かったのか?
まだまだ謎は絶えない。